文化」カテゴリーアーカイブ

斎藤道雄さんの本『手話を生きる』

斎藤道雄さんの『手話を生きる』という本を読みました。最近、ろうの人と知り合う機会があって何となく気になっているテーマだったので読んでみたのですが、知らないこと、誤解していたことばかりで衝撃の内容でした。

ろう者に対しては、聞こえないというハンディのある可哀そうな人、というイメージを持っていましたが、本の冒頭でいきなりそのイメージを一気に崩されました。ろう者同士は手話によって豊かなコミュニケーションができていて、自分たちのコミュニケーション方法に自信を持っているので、あえて聞こえるようになりたくはない、というのです。ろう者が、聴者(聞こえる人)と同じような方法でコミュニケーションできることを目指す、というのは、聴者の考え・希望であって、ろう者の思いとは一致していないというのは驚きでした。

『手話を生きる』斎藤道雄

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「見る」と「会う」、「行く」と「来る」、そして 「寿司」と「SUSHI」

フランス人が書く日本語の作文で、よくこんな文を目にします。

「友達を見に行きます。」

「友達を見に行く」っていうと、噂になるようなちょっと変わった友達がいて、その友達がどんなだかこっそり見にいく感じをイメージしてしまいます。でも、ここでは別にそういうことを言いたいわけじゃなくて、ふつうに「友達に会いに行きます。」と言いたいだけ。どうして、「会いに行きます」が「見に行きます」になってしまうかと言うと、友達に会いに行きますという意味のフランス語の文「Je vais voir mes amis (I go to see my friends)」にある「voir」という単語を辞書で探すと、最初に出てくる日本語の意味が「見る」だから。で、「voir」=「見る」と訳して「友達を見に行く」という文ができるというわけ。「voir」には「会う」という意味もありますが、辞書では4番目とか5番目とかもっと後ろの方で紹介されています。

景色や品物などに対しては「見に行く」を使うけど、人に対しては「見に行く」はあんまり使わないということを説明したくて、何かいい例がないかな、とあれやこれや悩んでいたら、「いま、会いにゆきます」のことを思い出しました。市川拓司さんによる恋愛小説で、映画化やドラマ化もされているあのヒット作です。この作品、フランス語にも翻訳されているのかな、とネットで探してみたらありました。J’ai lu、Flammarionという2つの出版社から出ているのを見つけました。

まず、表紙を見て驚きました。私のイメージする作品のイメージとかけ離れていたから。J’ai luでは、なぜか着物を着た女性が表紙になっていて、Flammarionでは、なぜか小さな女の子が表紙になっています。フランス人からみた日本やアジアのイメージに合わせて、売れやすいようにこういう表紙になったんでしょうか。。。

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鳥と読書

部屋の窓から見える大きな木。たぶん、オウシュウトウヒ (épicea) です。普段は全然気にしていなかったけど、最近は毎日眺めてます。この木には、たくさんの鳥たちがやってきて、鳴き声に癒されています。

兵庫に住む友人の J子も、最近は、散歩の時に双眼鏡を持ってよく鳥の観察をしているようで、この前は「ケリ」という鳥の親子に遭遇したそう。「ケリ」は警戒心が強くてずっと鳴きっぱなしだったそうですが、J子の描いたイラストが破壊力満点で大爆笑だったので、許可をもらってここにも載せました。


ところで、この前、「カモメに飛ぶことを教えた猫」という本を読みました。フランスの学生たちは、どんな本が好きなのかなぁ、と気になって聞いてみたときに教えてもらった本です。学生が見せてくれた本の表紙がとてもかわいくて、一目ぼれして読んでみたら、すごくよかったです。ほのぼのして面白く、子どもも読めるような話ですが、内容は深くて、仲間や助け合い、異文化理解などについても考えさせられます。本当は紙の本が欲しかったけど売り切れていたので、kindle版でとり急ぎ読みましたが、手元に本を置いておきたいので、あとで本も買いたいと思います!短い話で、すぐに読めますので、興味のある方は是非読んでみてください!


この本を書いたのは、チリ人の作家ルイス・セプルベダ(Luis Sepulveda)、日本語のタイトルも長いけど、原作(スペイン語)や、フランス語訳のタイトルはこんな感じで、もっと長いです!
– スペイン語タイトル「Historia de una gaviota y del gato que le enseñó a volar」
– フランス語タイトル「Histoire d’une mouette et du chat qui lui apprit à voler」
こうやって見ると、フランス語とスペイン語って、本当に似てるなぁ。

家で過ごす時間が増えたので、こんな感じで最近は前よりよく本を読んでますが、本で読んだ作品を映画や舞台で見てみたり、昔読んだ本をまた繰り返し読んだりすると、30%ぐらいしか分からなかったのが60、70%ぐらいに分かるようになったり、逆に新たな疑問が出てきたりして面白い。

フランスの学生たちにおすすめしてもらった本は、この他にもたくさんあります。フランスや日本の作品の他、イギリス、韓国、中国、アメリカ、ブラジルの本など、いろいろで面白かったので、忘れないようにリストにしてみました。興味のある方はぜひ見てみてください~。

cf.
フランスの大学生(日本語科の1年生)がおすすめしてくれた本

アルケミスト – 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ(ブラジル)
あん』ドリアン助川(日)
エラゴン 遺志を継ぐ者』クリストファー・パオリーニ(米)
カモメに飛ぶことを教えた猫』ルイス・セプルベダ (チリ)
刑務所のリタ・ヘイワース』スティーヴン・キング(米)
氷と炎の歌』ジョージ・R・R・マーティン(米)
シャイニング』スティーブン・キング(米)
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ネルソン・マンデラの言葉

友人に、ネルソン・マンデラの名言を教えてもらって、なんだかとっても共感して感動してしまった。これです↓

If you talk to a man in a language he understands, that goes to his head. If you talk to him in his own language, that goes to his heart.
――「相手が理解できることばで話しかければ、それは相手の頭に届く。相手の母国語で話しかければ、それは相手の心に届く」


たしかに、例えば外国人に「Thank you」と言われたら頭で理解して、あ~嬉しいな、と思うけど、外国人が頑張って日本語を使って「ありがとう」と言ってくれたら、なんだかキュンとして、もっと心の奥深いところで嬉しい!って思える。(あ~、私の国や私の国の文化を好きになろうとしてくれてるんだな、という気がするし。ま、時と場合によっては、逆にイラっとすることもあるけど…(笑)
外国の人と話す機会があるときや、どこか外国に旅行するときは、少しでも現地の言葉を覚えてその土地の言葉でコミュニケーションをとれたらいいな、と思った。

上毛かるた

この前の金曜日の日本語のアトリエでは、日本のお正月の話を少ししたあと、「上毛かるた」で遊んでみました。ふつうにかるたとりをして遊んだあと、好きなひらがなのカードを選んで単語を作ってみたり、どの絵が好きかなどを話したり。「さむらい」「にく」など、みんな思い思いに好きな単語を作ってました。

私が特に好きなカードは、この5つ。
・す  裾野は長し 赤城山    (きれいな山~)
・せ  仙境尾瀬沼 花の原    (水芭蕉がきれい)
・ふ  分福茶釜の茂林寺     (たぬきがかわいい)
・み  水上谷川 スキーと登山  (白いところに人が1人)
・よ  世のちり洗う 四万温泉   (はだか!)

ちなみに、上毛は、群馬県の昔の呼び方で、上毛かるたは、群馬県の歴史や地理などが盛り込まれたかるたです。年末に帰省したときに購入して、初めてじっくり見てみたけど、絵がきれいだし、カードの裏には名所や名物、有名人などの詳しい説明もついてて楽しいし、すばらしいカルタだ~!

cf. 上毛かるたの一覧

おりがみ(ねずみ)

折り紙会館で買った折り紙(日本の色 ORIGAMI)で、ねずみを折ってみました。浅葱色や桜色、若竹色などなど、日本の伝統色の折り紙です。綺麗でやさしい色~。

茶道と焼物の講演会

先週は、大学で茶道と焼物の講演会がありました。茶道家で、日仏茶道交流会の代表もつとめていらっしゃる森宗勇(もりそうゆう)さんと、高取焼の16代目の亀井久彰(かめいひさあき)さんによる講演でした。ストの影響で、開始時間が1時間以上遅れてしまって、どうなることやらと思いましたが、なんとか無事終わってよかったです。それにしても、ストライキの影響で交通機関が乱れて、電車が10本に1本だけの運行になったりという状況の中、茶道の道具や、展示用の作品といった大荷物をかかえて、日本からはるばるグルノーブルまで来るのは、本当に大変だったかと思います!

茶道と焼物
茶道のデモンストレーションの前には、抹茶の歴史のお話や、茶道と焼物の切っても切れない関係、代表的な茶人:千利休(せんのりきゅう)、古田織部(ふるたおりべ)、小堀遠州(こぼりえんしゅう)の紹介とそれぞれの茶人のスタイルなどの話がありました。古田織部が千利休の弟子になるまでの小話は特に面白かったです。

織部は利休の弟子になって茶道を学びたいと思っていましたが、利休は弟子をとらない主義だったので、織部はなかなか弟子入りを認めてもらえなくて、断られ続けていました。それでも、弟子になりたい一心で、めげすにも頼み続けたら、ある日、利休が織部に言います。「じゃ、私の庭を掃除することから始めなさい。」と。
織部は、弟子になれる日を夢見て、来る日も来る日もチリ1つ残らないように綺麗に利休の庭を掃除しました。でも、利休はなかなか認めてくれません。というのも、利休の感性は、「わび、さび」で、例えば、花は、咲き誇ってるときだけじゃなくて、枯れて散ったあとも美しいんだ、という美意識だったので。枯れた花も全部綺麗に掃除してしまってはだめだったようです。それで、織部は全てをきっちり綺麗に掃除するのでなく、枯れた花や散っている花をあえてそのままに残しておくようにしました。それで、ようやく弟子入りを認められたとのこと。
利休はいつも、「人と違うことをせよ」と言っていました。織部はその教えを守って、利休のわびさびとは対照的な大胆で自由なスタイルを確立します。織部の後、戦乱の時代が終わり平和な時代になると、上品で綺麗な小堀遠州という茶人が登場します。個人的には、遠州の上品なスタイルより、織部の動的で破調のスタイルに惹かれました。

高取焼
高取焼というのは、初めてみましたが、とっても色が綺麗でした。伝統的な高取焼は、茶色っぽい色が特徴ですが、今回いらした16代目の亀井久彰さんの作品は、ブルーでつやつやしていてとっても綺麗でした!焼く前の段階で、土に鉄分をまぜておくと、こういう綺麗な色が出るそうです。同じ釉薬でも火加減によって色や模様が色々変わるそうです。陶芸って、科学だな~。

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気持ちのよい曲:Ludovico Einaudi 『Fly』

ラジオ聞いてたら、気持ちのよい曲が流れてきました。なんか昔聞いたことある感じ、と思ったら、前に見た映画「Intouchables (最強のふたり)」でも使われていたイタリア人のミュージシャン、ルドヴィコ・エイナウディ(Ludovico Einaudi) の『Fly』という曲でした。ピアノの音は落ち着くなぁ。北極海でピアノを演奏しているこの映像もすごいです。

cf.
Ludovico Einaudi – Fly (The Intouchables)
Ludovico Einaudi – “Elegy for the Arctic” – Official Live (Greenpeace)

チリの映画『LA CORDILLÈRE DES SONGES』

この前『LA CORDILLÈRE DES SONGES』というチリのドキュメンタリー映画を見ました。監督のパトリシオ・グスマンは、南米チリのサンチアゴ生まれですが、チリのクーデターの際に逮捕され、その後キューバに亡命。その後はスペインやフランスに滞在して映画の制作を続けています。

la cordillère des songes

この映画の中には、たくさんの人のインタビュー映像が出てきました。チリからフランスに亡命して、パリでアンデス山脈を描き続けているアーティスト、チリにとどまってカメラを回し続けている報道カメラマン、チリの一般の住民など。1973年のチリ・クーデターの後にピノチェ政権は独裁政治を行って、たくさんの犠牲者を出しました。インタビューの合間には、とても雄大で綺麗なアンデス山脈の映像が挿入されてるんですが、山の映像が綺麗なだけに、ピノチェ時代の残酷な暴力の映像が一層ひどく感じられました。(正直、この映画を見るまで、チリの政治のことはあまり知らなかったんですが。。。)
チリの町は徐々に再建されて近代化されて綺麗になっていますが、町を俯瞰で撮ると、町の片隅に残っている廃墟のような場所がはっきりと映って、切ない気持ちになりました。

この映画はスペイン語で、フランス語字幕だったので、たぶん内容は半分も理解できてないと思いますが、映像が綺麗でチリのことも少し知ることができたので、見て良かったです。スペイン語とフランス語は同じラテン語起源の言語なので、本当に良く似ています。スペイン語の音は、フランス語と比べると何となく庶民的で親しみやすく心地よくて、発音もはっきりしているので、滑舌の悪い私にも発音しやすそうだな。いつかスペインや南米に旅行する時のために、スペイン語もやってみようかな!

cf.
映画 『LA CORDILLÈRE DES SONGES』 予告編
Cordillère_des_Andes(アンデス山脈)
BASIC CONVERSATIONAL PHRASES IN SPANISH for beginners (スペイン語会話のおもしろい動画)

日本語のアトリエ@図書館

先週の金曜日に、市の図書館で日本語のアトリエをしました。
アトリエで使えるような何かいい絵本はないかなぁ、と探していたときに、和田誠さんの「ぬすまれた月」という絵本をみつけてとてもいいと思ったので、今回はこれを使うことにしました。アトリエでは、まず絵本を一緒に読んでから、本の内容に関することなど、自由に会話しました。

私は、詩人の谷川俊太郎さんや作家の星新一さんが好きで、和田誠さんのイラストは彼らの作品の表紙にもよく使われていたので何度も見たことはあったんですが、和田誠さん自身については、そんなによく知りませんでした。和田誠さんが今年の10月7日にお亡くなりになったというニュースをみて、改めて和田誠さんってどんな人なんだろ?と探していたときに、「ぬすまれた月」という本に出会いました。

この絵本では、イラストだけでなく、文章も和田誠さんが書いているということで、面白そうだな、と思って読んでみたら、すごくよかった!内容が深くて、子どもだけでなく大人も楽しめる感じです。月が大好きな男が毎日月を眺めて楽しんでいるところから始まるこのお話。展開が面白くて、月の満ち欠けや日食、月食、潮の満ち引きなど、関する科学的な内容もところどころに挿入されててイラストもかわいくて、素敵でした~。参加者の方々も、気に入ってくれたようです!


次回のアトリエは、12月20日(金)の18時からの予定です。絵本等の作品は、日本語とフランス語の両方で読んで、会話も日本語とフランス語まぜてしますので、日本語が全然わからなくても大丈夫です。興味のある方は、ぜひいらしてくださいね!

cf.
Wada Makoto
Bibliothèque municipale internationale

『Jean-Marc Rochette – Artiste au sommet – 』

Musée de l’Ancien Évêchéという美術館でやっている『Jean-Marc Rochette – Artiste au sommet – 』という展示を見に行ってきました。Jean-Marc Rochetteは、山が好きで、もともと山のガイドを目指していましたが、山での事故にあってからBD(まんが)のアーティストになって、今ではBD(まんが)の他、絵、彫刻、イラストなど様々な作品を発表しています。今回の展示会では、主に彼の自伝的なまんが『Ailefroide, altitude 3954』や最新作の『Le loup(オオカミ)』を中心に見ることができました。

全然知らなかったんですが、幸いにも、今日は彼が美術館で自らガイドをしてくれる日だったようで、本人から直々に作品の説明を聞くことができました。展示が気に入ったので、『Le loup』というBDを買って、サインしてもらいました。

名前を聞かれたので、「さえ」と言ったんですが、が「ふぁえ」に聞こえたのか、最初「S」じゃなくて「F」と書かれてしまいましたが、Sだと言ったらあわてて書き直してくれました(笑)。そして、素敵なオオカミの絵まで描いてくれました!
最初は、あんまり目をあわせてくれませんでしたが、山の友達からあなたの評判を聞いてました。今日は直々に作品についてのお話を聞けてとても嬉しいです!」と言ったら、じーっとこっちを見てくれました。
かっこいいおじさんでした!

cf.
– ビデオ:“Le Loup”, le nouvel album de Jean-Marc Rochette (美術館の展示の様子や、彼のインタビューなどが見られます。ダンディです。)

Andry-Farcyの回顧展

グルノーブル美術館で今やっているAndry Farcy の回顧展に行ってきました。彼は、1919年にグルノーブル美術館の学芸員となり、前衛美術(アヴァンギャルド)の作品の収集に力を入れました。足りない予算は、市長やアーティストと交渉したり新聞などを通じて市民に呼びかけたりして寄付を募って、作品を徐々に増やしていったそうです。グルノーブルは、フランスで最初の近代美術の美術館で、世界的にみても近代美術の分野で先駆けだそうです。今こうやってここで近代のアーティストたちの選りすぐりの作品をたくさん見ることができるのも、彼のこんな努力のおかげなんだなぁ、と感心しました。

以下は、1921年の美術館の改修の際の、彼のスピーチの抜粋です。
« Mieux vaut balbutier des vérités naissantes que d’affirmer avec facilité des vérités conquises par nos aînés ». Discours d’Andry-Farcy à l’occasion du réaménagement des salles du musée, 23 juillet 1921.

『先人たちが手に入れた真実を、確かにそうだね~と言って流暢に話すよりも、生まれかけの新しい真実をたどたどしく話す方がいい。』(日本語訳:私)

cf.
Hommage à Andry-Farcy, un conservateur d’avant-garde [1919-1949]